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危機に瀕する「外苑いちょう並木」

現在、神宮外苑の再開発計画が進行中(本誌No.146にて掲載)であるが、2022年8月18日の環境影響評価審議会において、事業者の評価書案に記載された内容の根拠の不明瞭さが指摘され、継続的な関与を表明するという異例の答申となった。

その中でも特に神宮外苑のイチョウ並木に関する指摘が多かった。今回は、ユネスコの諮問機関である日本イコモスが、樹木学の権威である東京農業大学の濱野周ちかやす泰氏の協力を得て行った、神宮外苑のイチョウ並木146本の毎木調査に至った経緯と、そのうち、緊急に保全対策が必要であるイチョウを掲載する。

「外苑いちょう並木」緊急調査の目的

現在、神宮外苑地区の再開発計画が進行しており、大量の歴史ある樹木が伐採されることから多くの人びとが計画の見直しを求めている。なかでも、創建時より100年の時を超えて創り出されてきた文化的資産である「いちょう並木」の未来永劫にわたる保全は、市民のみならず、文化庁、再開発計画を指導している東京都、地元自治体である港区や新宿区、事業者においても、全員の合意事項となっている。イチョウの総数は146本であり、1923年に当地に植栽されてから、1本も枯死することなく、100年の星霜を積み重ねてきた。

日本イコモスは、2022年1月より、季節ごとの変化も踏まえて、現地調査を「公道より」行っており、特に、いちょう並木に大きな異変、すなわち、枯損が生じている樹木があることを確認している。

2022年10月3日に事業者に対し検証可能な毎木調査データの提示を要請しており、同年10月28日に事業者より最新のデータが公表されたが146本のイチョウ樹については約4年前の更新が全くされていないデータであった。 このため、日本イコモスでは、樹木学の権威で、樹木医を指導する役割を担い「鎮座百年記念第二次明治神宮境内総合調査」において、森林及び植物調査の指揮・統括にあたった濱野周泰氏(東京農業大学客員教授)の協力のもと、植物生態学、樹木学の見地からイチョウ並木の緊急調査を行い、とりまとめた。

調査内容

樹木は、一般に同じ気候帯では、同一樹種の特徴は、ほぼ同じと言われている。しかし、実際には生育する環境により多様な変化がみられる。樹木により、黄葉が多様であるのは、個体差だけではなく、都市環境における、日照・通風・樹木相互の位置関係・道路からの輻射熱等、様々の生理的ストレスによる複合作用に起因している。早期に黄葉している樹木の先端部分には枯損などが見られ、樹木全体のバランスの崩れが、先端部に顕著に出現していることがわかる。

このため、今回の調査では、通常の調査に加えて、先端部の状況を把握するものとし、146本のデータシートに、基本的に、①樹形全体、②先端部の状況、③枝の伸長状況と緑量、④地上部の状況の4つの写真を挿入し、わかりやすいデータシートの作成を行った。

毎木調査 評価ランク表

調査方法

・日時: 2022年10月29日~11月6日

・方法:事業者が開示した毎木調査表(2018年12月25日~2019年1月28日)を参照し、「公道」より目視により調査。146本のデータシートを作成

・視点:①全体:樹勢、樹形、枝の伸長量、幹や大枝の欠損や腐朽状況、緑量、葉色、葉の大きさ、葉の密度

②先端部の状況を精査

③地上部の利用状況

④周辺環境の影響

⑤保全に向けた今後の課題

・樹高・幹周・葉張りについては、事業者の毎木調査表に基づき記載。

データシート(146 本の毎木調査データシートより抜粋)

・2022 年10 月28 日に公表された事業者の毎木調査では、活力度は「A」ランクとなっている。調査日は2018 年12 月~ 2019 年1 月であり、更新されていない。この4 年間で大きな変化が生じている。

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